現在もなお世界中で猛威を奮う新型コロナウイルス(COVID-19)により、予想だにしなかった事態への備えと初動対応の重要性を実感した方も多いのではないでしょうか。

じつは私たちDGベンチャーズの支援先では、そういった非常時を想定した危機管理の領域にて事業を推進している会社があります。

企業が事業活動する上で妨げになりうる災害・事故・トラブルの1次情報をスピーディーに取得し、不測の事態でも可能な限り素早い対応をサポートする株式会社Spectee。

今回はその創業秘話や、コロナ禍を受けての企業としての取り組みや考え方について、代表取締役村上 建治郎氏にお話を伺いました。

(以下、質問者はDGベンチャーズメンバー、回答者は株式会社Spectee代表取締役村上 建治郎氏)

 


[株式会社Spectee]

AI技術をベースとした画像解析や自然言語解析を使って、SNS上にある動画や画像を自動収集し、今この瞬間に起こっている出来事を届けるSNSリアルタイム速報サービス「Spectee(スペクティ)」を開発・運営。事故・災害などを想定した危機管理においてスピーディーな情報取得の実現を支援している。その他、人の声に近い音声読み上げをするAIアナウンサー「荒木ゆい」を開発・提供。


 

緊急時だからこそ現場との情報ギャップに課題を感じた

− では、早速ですが創業のきっかけからお聞かせください。

私たちの創業は、2011年3月に起きた東日本大震災後のボランティアの経験がきっかけでした。正直それまでは現在の事業に繋がる事業構想はあまりなかったんです。その時に印象的だったのが、東京で報道されている内容と実際に現地に問い合わせた時の実態のギャップの大きさでした。

例えばニュースでは、「すでにかなりの人数のボランティアスタッフが赴いているため現地入りを控えてください」といった内容の報道がなされていても、実際は一部のエリアに集中しているだけで人員不足に困っている地域が多かったり。正しく情報を取得するならSNSで現地の方をフォローしたほうがより正しい情報が手に入りやすかったんですよ。

そういった経験が、マスメディアであってもリアルな情報を届けることに限界があるんだという強い実感につながりました。「どうすれば情報のギャップがなくなるのか?」を考えた結果、地域に根ざした情報やコミュ二ティに着目し、起業に至っています。

 

− 現在とは事業モデルが異なるようですが、どういった内容だったのでしょうか?

最初はご近所コミュニティとして近隣情報が集約される「コロタウン」というサービスを開発していました。ちょうどアメリカでNextdoorというローカルSNSが生まれたタイミングで、ロケーションデータを活用したビジネスが注目され始めていた時期でもあったのです。

正直コミュニティサービスとして運営していた時は苦戦していました。ユーザー同士で交流してもらうためには、常に新しい話題がアップデートされ続けなければすぐに廃れてしまうため、どうにかして仕組みで活性化させるために試行錯誤していました。その打開策として、コンテンツを拡充するためにTwitterのロケーション情報を集約し始めたのです。

じつは意外な学びだったのですが、その集約された情報を眺めているだけでも十分面白かったんですよ!大事なのはコミュニケーションではなく情報そのものだったわけです。だったらプロダクトの機能をそこに集中した方が良さそうだと判断し、ご近所情報収集からリアル情報収集サービスへと進化させました。それがいまの事業の前身でもある「Spectee」です。スマートフォンアプリとして提供し、2万ダウンロードを達成しています。

 

なるほど、それは意外なピボットでしたね!

ただ、事業を成長させる最初のスタートを切れたものの、今後のビジネスの広がりのためにはもう一踏ん張り仕掛けが欲しいというのも正直なところでした。どうしようかとユーザーインタビューを進めた結果、これも予想していなかったことなのですが、じつはメディアに在籍する記者やインタビュアーの方の利用率が高いことを知ったのです。タイムリーな取材ネタ集めに役立つとして業界内では知られていたようなんですね。

なるほどと思い、そこからBtoB向けのサービスとしてPC版ダッシュボードに着手するようになりました。Onlab11期としてアクセラレータープログラムに参加したのはその頃です。

 

公共性の高いBtoBビジネスとしての発展

BtoCからBtoBへの転換だったわけですね。いまはどういった使われ方が多いのでしょうか。

いまのSpecteeは、「事件」「事故」「災害」といった緊急性の高い情報の収集や被害状況の把握などがメインの使われ方です。テレビ局や新聞社などのマスメディアはもちろん、官公庁や地方自治体、民間の事業会社にも導入されています。2018年時点で主要報道機関にはほぼ導入完了していますね。TwitterなどのSNSから事件性の高いものを判定し、フロア内に音声で通知しているのです。この2,3年は自治体や報道以外の民間企業での導入が多く、2020年現在すでに売上ベースでは報道機関よりも大きくなっています。災害対策やBCPといった危機管理対応に使われています。

 

もしかしてSpecteeで提供しているAIアナウンサー「荒木ゆい」はそこからきていますか?

そうなんです。じつはこの「荒木ゆい」は、元々Specteeの読み上げ機能でした。この機能を開発した当時、メインのユーザーだったテレビ局の報道フロアはスタッフの方が忙しすぎてそもそもデスクにいないということが多いので、UX向上の一環として通知内容を音声でも伝えるために開発したんです。その時にあらゆるアナウンサーの音声データをもとにした音声プログラムが組まれた結果、かなり精度の高い読み上げ機能として実装されたと思います。その後キャラクター設定を付与し、アナウンサーとしてデビューに至りました。

「荒木ゆい」は報道機関での読み上げ以外のユースケースもかなり広がっています。いまのサービスの原型は報道の現場のニーズから形づくられてはいますが、現在の利用における報道関係の割合は3割程度に収まっています。現在特に多いのはショッピングモールや百貨店です。高島屋の迷子放送もいまは「荒木ゆい」が行ってますよ!

そのほか、ドローンと荒木ゆいのコラボで自治体の地域音声発信として活用したり、様々な場面で「荒木ゆい」が活躍しています。

 

既存の仕組みと融合し、社会的意義の高い事業としての進化を

− 2020年に襲ったコロナに対して、企業としてどんな対応をされていたのでしょうか。

まず、サービスとしては、官公庁からの依頼もあり、AIを用いた感染状況の算出とリアルタイム配信などに取り組んでいます。ニュースを経由することで生じるタイムラグを減ら、ニュースよりも早く関連する情報を収集したり、ニュースには出てこない情報を検索したりするもので、。画像やデマ情報の解析によりかなり精度の高い分析が可能です。

その他ですとAIアナウンサー「荒木ゆい」放送局に提供することで、在宅勤務等で活動が制限されているアナウンサーに代わり、簡易的な原稿の読み上げを行ったり、商業施設などでも無人で放送ができるため、コロナ禍においては重宝いただいています。

例えばテレビ局では、平時であっても報道フロアでは緊急速報の読み上げのために常に1名アナウンサーが控えているのが慣習でした。AIアナウンサーを導入することにより、そういった働き方の改善に繋がっています。

また、AIアナウンサーと生身のアナウンサーではそれぞれ強みが異なるものです。AIアナウンサーは、決められた時間内に原稿を正確に読むなどの作業は得意ですが、一方でその場で適宜判断をする司会進行やインタビューは不慣れです。その部分はこれまでと同様に人間が価値発揮すべき領域と言えます。それぞれの強みを組み合わせることで、報道の現場に必要な緊急性を損なわず、就業しているアナウンサーの方がよりクリエイティブな価値発揮に集中出来るのです。

このように、今回のコロナをきっかけに「アナウンサーの働き方」の見直すきっかけになったこともあり、「荒木ゆい」の導入先の顧客からはかなり高いご評価をいただきました。

またこれをきっかけに、既存の仕組みとうまく棲み分けしながらそれぞれの強みを融合させたサービス提供を行うことの意識が強くなりました。

 

 

− 逆に自社内においては変化や影響はありましたか?

やはり、対面して仕事をするという前提がなくなったのが、各所で影響を及ぼしていると感じます。

例えば社員のコミュニケーションなど。Specteeは元々自由にリモートワークができる環境で、在宅勤務はもちろんリゾート地からのアクセスもOKとしていたので、在宅勤務へ切ることはスムーズだったかと思います。ただ、本社機能や全社を巻き込んだ取り組みについてはオフィスで行うことも多かったため、継続的なリモートを前提としたコミュニケーション設計や労務周り、社内制度、フローの整備が必要でした。

その他、営業活動にも影響があったことには正直危機感を抱いています。Specteeでは、実際に実物を目で見てもらい、触ったり動かしたりしてもらうことで、サービスの魅力や価値を伝えていましたが、それをオンラインでそういったサービスの「ユーザー体験」をどう表現するかはまだまだ課題です。私たちに限らず、導入から活用までをサポートするカスタマーサクセスの重要度が高い他社のサービスなども同様でしょう。この課題はどこの会社でも悩むポイントだと思います。少なくとも私だったら、それを解決するSaaSプロダクトがあったら飛びつくと思いますね。

 

社会の安全保障を実現するテクノロジー企業で在りたい

− 最後に、企業として目指している姿を教えてください!

Specteeが提供していきたいのは、企業や自治体が「危機」に対して正しい対策や意思決定を講じるための支援です。そのために、事態の全容把握と被害の予測をスピーディーに精度高く行うことを目指しています。

 

特に最近だと想定以上の規模の災害が全国的に増えており、過去の経験則だけだと対応しきれない事例が増えています。未曾有の事態に対して正しい判断が出来るように、タイムリーな情報を素早く集める重要性が高まっているのです。

 

そのためにAIをつかったビッグデータ解析を行っています。SNSに限らず河川敷につけたカメラなど様々な範囲から収集・分析を進めている状況です。この分野についてはどんどん最先端の技術をつかっている会社にしていきたいですね。

その他この事業を進めてきた結果、「私たちが捉えるべき世の中に発生する危機とは何か?」を定義し直す必要を感じています。これまでは自然災害に着目する事が多かったのですが、現在私たちは社会活動に対してネガティブなインパクトを与えるもの、停滞させてしまうものすべてが危機」であると考えていす。AIなどの最先端のテクノロジーを用いて社会の安全を守り、ひいては自治体や企業様の危機管理パートナーとして存在すること。それが私たちの望みです。

− 社会全体を巻き込んだ、インフラとして欠かせない存在になっていきそうですね。私たちも御社の支援を通して少しでも貢献できたらと思います!