デジタルガレージグループ(以下、DG)では世界にチャレンジするスタートアップに投資し、支援しています。今回ご紹介する株式会社LOAD&ROAD(以下、LOAD&ROAD)。代表の河野辺氏がアメリカ留学中に設立し、スマホアプリと連携してお茶を自動抽出するティーポットIoT「teploティーポット」を開発しています。2021年にDG Ventures(以下「DGV」)から出資しました。
複雑なお茶の抽出をIoTで簡単にできるようにしただけでなく、お茶特有の「揺らぎ」すらもテクノロジーで実現するteplo。グローバルな開発体制だからこそ生じるローカライズの問題から「あらゆるお茶のプラットフォームになる」というteploの長期的な展望まで、代表の河野辺さんに伺いました。
お茶の「揺らぎ」もテクノロジーで実現
ー 事業の概要を教えて下さい。
LOAD&ROADでは、スマートフォンアプリと連携してお茶を自動抽出するティーポット「teploティーポット(以下「teplo」)」を開発しています。
お茶を本気で楽しむためには、茶葉量、水量、抽出時間、抽出温度等をコントロールする必要がありますが、これを一般家庭で正確に行うのは非常に難しい。teploはこれをIoTのハードウェアとアプリでコントロールすることで実現しました。2021年8月に最新版をリリースし、現在もハード・ソフト両面から改良を進めています。機能的な面はもちろん、「使いやすい」「洗いやすい」といった観点からもアップデートしていく予定です。
teploで用意している茶葉は全部で25種類(2022年1月時点)。スマホのモバイルアプリまたはWebサイトから購入可能です。個別に好きな茶葉を購入いただいてもいいですし、サブスクリプションコースにお申し込みいただければ、オススメの茶葉が毎月届くようになっています。
ー 茶葉はパーソナライズされて送られてくるのですか。
現在は新しいお茶に出会ってもらう体験をしてほしいということもあって、LOAD&ROADがオススメする茶葉をお送りしています。ただ将来的にはユーザーの嗜好や飲用の時間帯等を加味して、ユーザーに合ったサブスクボックス、パーソナライズされたお茶を届けるようにしていきたいですね。
お茶の味は大きく「渋味」「甘味」「うま味」「苦味」「酸味」の5つがあります。同じお茶でも抽出する温度や時間によってこれらは変化する。このバランスを整えるのがお茶の面白くも難しいところなのですが、これを上手くパーソナライズできれば、お客様の満足度も上がるのではないかと思います。
ー そんなに変数があっては、お茶ごとの魅力を伝えるのは大変ではないでしょうか。
そうですね。お茶農家の方が用意してくださった紹介文をそのまま使わせていただくこともありますし、我々目線での魅力を紹介文に盛り込むこともあります。お茶農家は味にフォーカスして説明する傾向がありますが、teploとしては、お茶自体のストーリー、つまり、作られた土地、土壌、歴史、地理といったことまで伝えていきたいんです。お茶だけではなくどんな料理とペアリングしたらおいしいか、といったことも考えますね。
ー Teploでのお茶の淹れ方はどのように決まるのでしょうか。
teploでは40〜95度の幅で温度調整が可能です。抽出時間は5分くらいのものが多いですが1〜10分の間で設定可能。インフューザーは回転しっぱなしなのか、振り子のように振った方がいいのか、浸したままにした方がおいしくなるのか、といったことを社内の日本茶インストラクターやソムリエ、料理人がエンジニアと協力しながら試行錯誤して最適な抽出方法を模索していきます。
ー お茶の淹れ方でテクノロジーが貢献している面はありますか。
前提として、お茶を淹れるのをテクノロジーで補助すると、味のブレは少なくなります。これは一見長所に見えますが、短所でもあるんです。人が淹れれば、例えばお茶を飲む方が緊張しているならリラックスできるようにわざと温度を下げる、といった「揺らぎ」を与えられます。しかし一辺倒なテクノロジーではそれは難しい。でもお茶はこの揺らぎが魅力でもある。
そこでteploでは「パーソナライズ抽出」を実現しました。脈拍や室温、湿度、指の温度、周囲の騒がしさ、照度等を解析した上で、「集中したい」「リラックスしたい」といった「なりたい気分」を選ぶことで、お茶の淹れ方を調整できるんです。このパーソナライズ抽出はteploの開発で最も苦労したポイントですね。
グローバルな開発体制だからこそ生じる苦労
ー LOAD&ROADのCTOであるMayuresh Soniさんは、河野辺さんが留学中に出会ったインド人ですし、他のエンジニアも世界中から集まっていますよね。「渋味」「うま味」といった独特のニュアンスを外国語で共有するのにご苦労されませんか。
日本語やお茶のニュアンスを言語化して伝えるというのは確かに難しいです。しかし、グローバルでお茶を楽しんでもらうためには、整理しなければならないポイントだと思います。ワインも複雑な香りや味で構成されていますが、ある程度どこの国でも伝わる共通言語やプロトコルが整っている。海外の方にお茶の魅力を伝えるためには、このような整備が必要だと感じています。
言語のニュアンスという意味では、他にも大変なことがあります。日本のサービスの場合は通常、日本語で開発して英語にローカライズしていくという順序で開発を進めると思うのですが、teploは逆で、まずインドで英語で開発し、それを日本語にローカライズするというプロセスです。その影響で日本語から作る場合と比べると、ちょっとニュアンスが変わってしまうことがあるんです。
K-POPを日本語の歌詞にすると、K-POPっぽい日本語になったりしますよね。それがポジティブにはたらくこともありますが、小さな違和感を産むこともあります。それと同じで、英語のサービスを日本にローカライズしたようになって、ユーザーがちょっとしたところで違和感を感じることがあるんです。この調整はかなり苦労しているポイントです。
DGVとはローカライズや広告でも連携を
ー 2021にDGVがLOAD&ROADに出資しています。経緯を教えて下さい。
私が留学を終えて帰国しteploを開発しているとき、VC何社かとお話をさせてもらっていて、その内の1社がDGVでした。当時はエンジェル・シードラウンドだったので投資フェーズが合わなかったのですが、ずっとteploへのフィードバックはいただいていたんです。teploも成長してきて、2021年の時点で両社のタイミングが合って投資していただきました。
ー 投資以外に連携していることはありますか?
デザインのローカライズや日本のユーザーが躓きやすいポイント等のディスカッションをしています。DGVは海外のスタートアップへも投資しているので、その経験からアドバイスをいただいたりして、貴重な機会になっています。またこれからはteploの広告等も必要になってくる。広告運用はデジタルガレージさんが得意とされている領域ですので、ここでも連携させてもらいたいと思っています。
teploでお茶をグローバル化させる
ー teploの長期的な展望を教えて下さい。
「teploティーポット」は、LOAD&ROADがやっていることをわかりやすく伝えるプロダクトではあるのですが、teploというブランドの要素の1つでしかありません。「おいしいお茶を世界中に届けていく」ことがteploというブランドのバリュー。そのため長期的には、2021年にローンチしたeコマースを、teploのお茶だけではなく、別のブランドのお茶や別ブランドの湯飲みや急須等も販売する、グローバルのプラットフォームにしていきたいと考えています。
ー teploだけでなく、あらゆるブランドのお茶を世界中に届けるということですね。海外で日本茶を買うのは大変なのでしょうか。
はい。海外では日本茶に限らず、お茶の需要が拡大しています。その中で日本茶の需要も高まっているのですが、いくつかのハードルがあります。
1つ目がローカライズの問題。現在、海外を視野に入れている日本のお茶ブランド自体が少なく、海外に合わせた残留農薬検査に対応しているブランドはさらに限られます。
teploは創業が海外で、インドで開発しているということもあって、ローカライズへの抵抗感が少ないですし、残留農薬検査やその申請が簡単にできるようなサービスを提供できれば、日本茶が海を渡りやすくなる。そういう方向に、teploのサービスを展開していきたいと考えています。
ー teploがグローバルで活躍するお茶のプラットフォームとなるように、DGVもお手伝いしていきます。河野辺さん、本日はありがとうございました。
よろしくお願いします。ありがとうございました。
(執筆:pilot boat 納富 隼平・撮影:taisho)